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退塾はどれだけベテランでもショック。
学習塾を経営していて、一番心臓がきゅ~っとなる瞬間です。退塾の申し出。
私は学習塾を始めて10年ちょっとのひよっこですが、生徒に退塾すると言われた日にはがっつり落ち込みます。
私がお世話になっている先生方、中には半世紀近く学習塾をやっている方もいます。それでも退塾と聞くと非常にショックを受けるようです。
そりゃそうです。手塩にかけて指導してきたのに、途中で抜けると言われたらね。
むしろ退塾すると聞いてショックを受けなくなったら大問題です。
慣れてしまうほど退塾者が出ているのも問題ですし、辞められてショックを受けないレベルの入れ込み具合なら生徒は離れて然るべき。
退塾されるとショックを受ける。落ち込む。これはもう当たり前なんです。
開業してから最初に退塾者を出してしまったときのことを、今でも私は覚えています。
開業して3番目に入ってくれた中学2年生の生徒。入塾して4ヶ月後、授業についていけないから退塾したいとの申し出が。
言われたその夜、まともに食事も喉を通らず、寝汗びっしょりでまともに眠れませんでした。
現在おかげさまで経営が安定してきたにせよ、年に何人か退塾者を出してしまう事もあります。
生徒の退塾を経験された方、お気持ち本当にわかりますよ。
“塾を辞めます”この一言で自分が精一杯やってきたことへの自信は粉々に打ち砕かれます。実は他の子も退塾を考えているんじゃないかという疑心暗鬼にも陥ります。
ここではその対応と、気持ちの立て直し方を書いていこうと思います。
退塾をゼロにすることは絶対にできない。
退塾は学習塾にとって恐ろしいもの。自分を否定された気持ちになり、収入も減ります。できることなら避けたいに決まっています。
もちろん保護者や生徒と信頼関係を築き、テストの成績をあげていくことでできる限り退塾を防ぐことはできます。
しかし退塾者をゼロにすることは絶対にできません。そのことは早い段階で認めてください。
自分で学習塾を開業して子どもの教育に携わろうとするのであれば、譲れない価値観のひとつやふたつは必ずあると思います。教育方針といいますか。
私の学習塾でいえば “けじめをつける” “相手の立場に立って考える” などです。
学習塾は人と人との商売です。価値観が合わなければお互いにとって損。
まして相手は年端もいかない小中学生です。ときには大人としてがつんと言わなければならないときもあります。
そのとき、自分の掲げた信念だけは曲げないようにしてください。退塾を恐れるあまりに信念を曲げて媚びるようでは、今度はまともな生徒が去っていきます。
筋が通っていない人間について行こうという生徒は少ないです。
多少売上が落ちようが、学習塾の根幹をなす部分で相容れないとなれば、それはもう仕方がありません。
万人受けする学習塾など、作ることは絶対に不可能です。あなたの信念が正しいかどうかは、残った生徒達が証明してくれます。
なので私の学習塾では、入塾の面談の段階で私の信念をはっきり伝えています。納得した上で入塾して欲しいですから。もしそれで入塾を見送るのであれば、その方がお互いのためと割り切っています。
もちろん“退塾者をゼロにする!”という目標を掲げるのは自由ですよ。それに越したことはない。
しかし退塾者ゼロはあくまで懸命に指導をした結果であるべき。退塾ゼロ自体を目的にするのはいかがなものかと思います。
退塾を防ぐために信念に合わない対応をしようと思ったら、余計な仕事が増えてしまいます。基準もぶれぶれになりそう。
学習塾の仕事はなんだかんだ神経を使います。玉虫色の対応をしていると、あなた自身がつぶれてしまいますよ。
生徒のためにできる限りのことはする。だが譲れないところもある。
それくらいのスタンスがベスト。お互いのためです。その結果の退塾であれば、やむなしととらえましょう。
成績不振での退塾ならば、猛省すべき。
そもそも退塾の連絡をくれる保護者は、
と、結論だけを伝えてきます。理由は言わないことがほとんど。
退塾に際して保護者が明確な理由を言ってこない場合、ほぼ100%成績があがっていないことが退塾理由です。
そのことは肝に銘じておいてください。
私も雇われ時代は、退塾者に理由を聞くよう指示されていました。事実、聞いてみればほぼ100%が成績不振が理由でした。
なので退塾理由を向こうから言ってこない場合は、あえて聞く必要はない。成績があがらなかったからと言葉にして再認識させることはないですよ。
仮に成績不振で退塾者が出たとしましょうか。
“こちらは一生懸命に指導したのに、あいつががんばらないから成績があがらなかったんだ!”
こんな風に考える方、まさかいませんよね。
成績があがらないのを生徒のせいにしては、学習塾に携わる者としておしまいですよ。
そもそも保護者と生徒は何のために学習塾を探すのか。
学習塾へ通う理由、それは成績をあげるために他なりません。
そのために保護者は高い月謝を払って我が子を学習塾へ入れるのです。
そしてこちらは引き受けた以上、成績をあげて欲しいという要求に応え、結果を出さなければなりません。
そもそもそれでお金をもらってるんですからね。プロなんです。がんばったけどダメでしたは通用しません。
生徒ががんばらないから成績があがらないと思うのであれば、どうしたら生徒ががんばるかを考えればいい。それを放棄して生徒のせいにしていては、成長しない学習塾のできあがりです。
勉強を教えることは学習塾の役割ではありません。昨今の保護者の方は高学歴な方が多いので、勉強を教えるだけなら自分でできるんですよ。
しかし、親と子なので距離が近くぶつかってしまう。仕事が忙しくて時間が取れない。何より、教えるだけでは成績があがらない。
だから保護者はお金を払って学習塾に依頼するのです。学習塾の役割は成績をあげること。これに尽きます。
それができなかったのであれば、退塾されて当たり前なのです。
成績不振で退塾者を出してしまったのであれば、なぜその子の成績があがらなかったのか猛省をしてください。
指導方法や普段の会話、接する態度、内心この子はもう無理かなと諦めてなかったかとかね。
成績があがらなかったことでの退塾は悪評にしかなりません。ですが、なってしまったものは仕方がない。
自分のどこかに気の緩みがあったことを教えてくれたと考えてください。
自分を正当化せず、反省点を洗い出し、次につなげていきましょう。
無理な引き留めはNG。家庭の出した結論を尊重する。
くり返しになりますが、私も雇われ時代は退塾の理由を聞いていたんです。というか理由を聞いて塾を辞めないよう引き留めろと言われてましたよ。売上下がるからね。
ただ…ちょっとしたら結局その後辞めるんですよ。そりゃそうなんです。理由を論破して無理に思いとどまらせるだけなんですから。
なので学習塾を経営する立場になったら、
家庭が退塾すると結論を出してきたら、こちらからは引き留めない。
その方がいいです。
そして残酷なことはっきりいいますよ。
退塾の申し出をされることは、あなたが信頼されていなかったこと同義なのです。
成績をきっちりあげて、保護者とのコミュニケーションをしっかりとっていれば、保護者には退塾なんて発想はそうそう出てこないんです。だって我が子を預けてるんですよ学習塾に。
でも、出ちゃった。
その信頼されていない状態で、引き留めようとしても無理ですよ。強引に留めても何もいいことない。
むしろ、
“入塾したら簡単に辞めさせてもらえない塾”
なんてレッテル貼られた日には誰も入塾してもらえなくなります。
なので私の学習塾は退塾前の面談などは一切しません。退塾の連絡をもらったら、
内心号泣ですけどね。こんな感じであっさりです。退塾の申し出をされた時点で我々の負けなんです。悔しいですけど。
正直言って、多少なり保護者との信頼関係があれば退塾の連絡の前に相談とかあるはずなんですよ。でも、それがなかったのであればもう仕方がない。
自分の力量不足を棚に上げた説得。人はそれを言い訳といいます。
言い訳をしている暇があったら、家庭が出した結論を尊重して今後の活躍をお祈りしましょう。
そして自分の至らなかった点をピックアップ。今後同じようなことがおきないように行動を起こしていくのです。切り替え切り替え。
↑こんなこともありました。
まぁ考え方はそれぞれあるけども…信頼が築けていなかったのかな…いやでもな…これは仕方なかったと言ってもいいのではないかな…。
いろんな家庭がありますからね(適当)。
どうしようもない退塾理由のときもある。
“遠方への引っ越し(海を渡る)”
“復職により送迎が難しくなる(隣の隣町から来てた生徒)”
“大黒柱が倒れて金銭的にきつくなった(4人姉妹)”
“本人が体調を崩して入院し通塾できなくなった(翌年から快方に向かった)”
…
いずれも私が実際に言われた退塾理由です。
もちろんいちいち真偽を確かめたりはしないので、本当のところはわからないですよ。優しい保護者の方が私を傷つけないようにと使った方便かもしれません。
ただ我々にはどうしようもできないことで退塾してしまうときも現実的にはあるんです。
そのときは、
と顔で笑って心で泣いて送り出すしかないです。
金銭面などは何とかしてあげたいのはやまやまだったのですが、一人特別扱いすると他の子もそうしなければ不平等になってしまいます。周りに事情も説明しなければなりませんし…現実的ではありませんでした。
ただ、こういった円満退塾(?)の場合はその後ご縁があって生徒を紹介してもらえるときもあります。
年賀状などでやりとりしてもいいのではないでしょうか。
引っ越しで退塾してしまった生徒が入学した高校の同級生の妹の親戚が評判を聞いて入塾してくれたときもありました。
立ち直るには、目の前にいる生徒達に全力を尽くす。
大切にしてきた生徒が退塾してしまった。落ち込むに決まっています。ぐちぐち言いたくなるときもあるでしょう。
しかし、間違っても残った生徒達の前で退塾者のことを目の敵にしないでください。
“あいつはダメだ” だの “裏切り者だ” だの “成績が下がるに決まっている” だのね。
ウソみたいな話ですけど、いるんですよこういう人。
退塾者が出たときの態度こそ、人としての器が問われます。
“体に気をつけてがんばってくれればそれでいい”
一度はいっしょに勉強をした相手です。懐を深く、今後も応援してあげましょう。
退塾という事実は受けとめざるを得ません。自信や尊厳が無情にも打ち砕かれます。反省点も多々出てくるでしょう。
しかし、失ったものばかり見ても仕方がないのです。残っているもののことも忘れないでください。
あなたのところに残ってくれている生徒がいます。あなたの元でがんばりたいという生徒達がいます。
あなたを信じて学習塾に通ってくれているその子達のために全力を尽くしましょう。
残った生徒達の成績をきっちりあげること。それが一番の特効薬になります。
自分のやり方で残った生徒達の成績があがった。自分は間違っていなかったとね。
そして、辞めてしまった子もどうすれば成績をあげることができたかを考える。そうすることで対応力がどんどん広がっていきます。
事実は事実として受けとめ、今できることを全力でやる。
その姿勢を忘れないようにしたいです。